忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―

演奏が終わった。

 亜美はしばらく余韻に浸っていた。

「……やっぱり好きです」

「曲?」

「はい」

「そっか」

 幸也が鍵盤から手を離す。

 亜美は名残惜しそうにキーボードを見てから立ち上がった。

「ありがとうございました」

「うん」

「また聴きに来てもいいですか?」

「いいよ」

「……本当に?」

「何で疑うの」

「だって……」

「来てよ」

「…………」

 亜美が幸也を見る。

「はい」

 嬉しそうに笑った。

 その顔を見て、幸也も少し口元を緩める。

「じゃあ、また」

「うん」

「幸也さん」

「ん?」

「今日は本当にありがとうございました」

「別に。俺が聴かせたかっただけだし」

「…………」

 亜美の頬が赤くなる。

「じゃあ……また来ます」

「うん」

 扉が閉まった。

 静かになった部室で、幸也はしばらくそこを見ていた。

 さっきまで亜美が座っていた場所へ視線を移す。

『また聴きに来てもいいですか?』

「…………」

 幸也は椅子に座ったまま、鍵盤に指を置いた。

 一音だけ鳴らす。

 今日。

 亜美に聴かせたかった。

 初めて会った日に弾いた曲を。

 来なくなってから、何度も探した。

 会いたかった。

 だから呼んだ。

 演奏を聴いている亜美を見ていたら、それだけで嬉しかった。

 また来たいと言われて。

 もっと嬉しかった。

「……そっか」

 小さく零れた声が、誰もいない部屋に落ちる。

 やっと分かった。

 好きなんだ。

 亜美ちゃんのこと。