忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―

 同じ曲。

 あの日と同じ音。

 なのに、違って聞こえる。

 あの頃は遠い人だった。

 名前を呼ばれただけで嬉しくて。

 少し話せただけで、その日ずっと幸せだった。

 その人が今。

 自分に聴いてほしいと言って、目の前で弾いている。

「…………」

 好きだった。

 あの日から。

 ずっと好きだった。

 振られても。

 無かったことにしようとしても。

 消えなかった。

 幸也の指が鍵盤の上を動く。

 亜美はそっと唇を結んだ。

 泣きそうだった。

 もう諦めないといけないと思っていた。

 好きでいることも。

 少しずつ終わらせないといけないと思っていたのに。

 こんなの。

 無理だ。

 最後の音が響く。

 ゆっくりと消えていった。

 幸也の手が鍵盤から離れる。

 静かになった部屋で、亜美は何も言えなかった。

「亜美ちゃん?」

「……はい」

「終わったけど」

「分かってます……」

「じゃあ何か言ってよ」

「…………」

 言いたいことはいっぱいある。

 でも声にしたら、泣いてしまいそうだった。

「……懐かしいです」

「覚えてた?」

 亜美は顔を上げた。

「覚えてます」

「そっか」

「忘れません」

「あの日、初めて幸也さんの演奏を聴いて……」

 そこまで言って止まる。

 あの日。

 好きになった。

 それはもう伝えている。

 だから言わなくても、幸也には分かってしまう。

「何でこの曲か、分かった?」

「……初めて会ったときの曲だから?」

「うん」

 幸也は少し視線を落とした。

「昨日、弾いてたらこれになって」

「昨日?」

「そう」

「亜美ちゃんのこと思い出した」

「……え」

 亜美は息を止めた。

「だから、聴かせたくなった」

「…………」

 分かるのに。

 頭が追いつかない。

「私に……?」

「だから亜美ちゃん呼んだんだって」

 顔が熱くなる。

 幸也がこちらを見る。

「やっといつもの顔した」

「え?」

「最近ずっと変だったじゃん」

 亜美の表情が固まった。

 幸也はそれを見て、少し目を細める。

「またそれ」

「……何がですか?」

「すぐ逃げそうな顔」

 亜美は俯いた。

「俺、何かした?」

「……え?」

「避けられてるじゃん」

 胸の奥がざわつく。

 やっぱり。

 何か知ってる?