忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―

 数日後。

 亜美は教室を出たところで、スマートフォンを確認した。

 このまま帰ろう。

 今日は軽音サークルの近くにも行かない。

「亜美ちゃん」

「…………!」

 聞き慣れた声。

 反射的に歩き出しかけて。

 止まった。

「…………」

 今のは。

 さすがに不自然だった。

 ゆっくり振り向く。

 幸也がいた。

「今帰り?」

「……はい」

「へえ」

「…………」

「最近、部室来ないね」

 亜美はスマートフォンを握りしめた。

「忙しくて」

「サークル?」

「はい」

「そっか」

「…………」

 何でもない会話。

 幸也の声も変わらない。

 なのに。

『他にも見てた人、いるかもしれないね』

 丈の言葉が浮かぶ。

 幸也は。

 知ってる?

 あの日、丈といたこと。

 誰かから聞いた?

「亜美ちゃん?」

「……はい」

「聞いてる?」

「聞いてます」

「ほんと?」

 幸也が少し口元を緩める。

「ぼーっとしてるじゃん」

「ごめんなさい」

「謝ることじゃないでしょ」

「…………」

 いつもと同じ笑い方。

 いつもと同じ声。

 何も変わっていない。

 だから。

 聞けない。

 丈とのこと、知っていますか。

 そんなこと。

「亜美ちゃん」

「はい」

「今日も急いでる?」

「……はい」

 今度は迷わず答えた。

「そっか」

「…………」

「じゃあ、また」

「はい」

 亜美は小さく頭を下げ、すぐに歩き出した。