忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―

「でも」

「え?」

 丈が何気なく口にした。

「群司が見てたってことは」

「…………」

「他にも見てた人、いるかもしれないね」

「…………」

 亜美の表情が止まった。

「え……?」

「外だっただろ」

「…………」

「人が絶対いなかったとは言えないし」

「でも……」

「うん」

「群司だけじゃないの……?」

「分かんない」

「…………」

「群司が見てたことだって、亜美は今日まで知らなかったんだろ?」

「……うん」

「だったら」

 丈は少し眉を寄せる。

「他にもいたとしても、分からないよね」

「…………」

 さっきまで静かになっていた胸が、またざわつき始める。

 他にも。

 誰かが。

「……見られてたかもしれないってこと?」

「可能性はあるよ」

「…………」

「あくまで可能性だけど」

 丈はそう付け足した。

 でも。

 もう頭から離れなかった。

 昨日の自分。

 泣いて。

 丈の服を掴んで。

 あんなことを言った。

 それを。

 誰かが。

「……やだ」

「亜美」

「どうしよう……」

「まだ誰かに知られたって決まったわけじゃないよ」

「でも群司も……」

「うん」

「私、知らなかった」

「…………」

「今日まで知らなかったよ」

 また声が震え始める。

「もしサークルの人だったら……」

「亜美」

「誰か知ってたらどうしよう」

「…………」

「普通に話してた人が、本当は知ってたら……」

 怖い。

 誰が知っているのか分からない。

 そのことが怖い。

「落ち着いて」

 丈の声が静かに届く。

「…………」

「俺が言ったのは可能性の話だから」

「でも……」

「うん」

「怖い」

 亜美は自分の腕を抱いた。

「大丈夫」

「…………」

「考えすぎなくていいよ」

「…………」

「ごめん」

 丈の声は優しかった。

「怖がらせるつもりじゃなかった」

「…………」

「群司のこと聞いて、ちょっと心配になっただけ」

「……うん」

 心配。

 そうだ。

 丈は心配してくれただけ。

 自分が知らなかった可能性を教えてくれただけ。

「…………」

 亜美は俯いた。

 胸の奥に不安は残っている。

 それでも。

 丈と話しているうちに、また少しずつ呼吸が整っていった。