忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―

 二人で少し離れた場所へ移動した。

 座っても、亜美の手は落ち着かなかった。

 指を組んでは離す。

 また組む。

 丈は何も言わず隣にいる。

「…………」

「話せそう?」

「……うん」

「ゆっくりでいいよ」

 亜美は一度、息を吐いた。

「群司に告白されたの」

「今日?」

「うん」

「そっか」

「でも私、好きな人いるから……断って」

「うん」

「そしたら昨日のこと聞かれて……」

 亜美は少しずつ話した。

 丈と一緒にいたところを見られていたこと。

 会話まで聞かれていたこと。

 丈との関係を何度も聞かれたこと。

「先生とどういう関係なのって……」

「うん」

「何なのって」

「亜美は何て答えた?」

「……分かんないって」

「そっか」

「だって分かんないもん……」

「うん」

「私も分かんないのに、いっぱい聞かれて」

 丈は何も挟まない。

 ただ聞いている。

「怖くなって……」

「うん」

「群司怖いって言ったの」

「…………」

「一回、止まってくれたんだけど」

 亜美の指に力が入る。

「また色々言われて……」

 戻ろうとした。

 腕を掴まれた。

 離してと言った。

「それで……キスされた」

「…………」

「びっくりして」

 亜美の指が唇へ向かいかける。

 途中で止めた。

「押した」

「そっか」

「…………」

「怖かった?」

「……うん」

 丈は少し黙った。

「嫌だった?」

「…………」

 亜美はすぐに答えられなかった。

「分かんない……」

「うん」

「急だったから」

「そっか」

「…………」

 それ以上、丈は聞かなかった。

 分からない。

 そう言っても。

 答えを求められない。

「先生」

「ん?」

「分かんないって、変?」

「何で?」

「群司に聞かれても、何も答えられなかったから」

「別に変じゃないよ」

「…………」

「今分かんないなら、それでいいじゃん」

「いいの?」

「何が?」

「分かんなくても」

「うん」

「…………」

「無理に答え出す必要ある?」

 亜美は首を横に振った。

「じゃあいいよ」

「…………」

 肩の力が少し抜ける。

 さっきまで。

 分からないことが怖かった。

 答えられない自分がおかしいような気がしていた。

 でも。

 丈は何も求めない。

「……先生」

「ん?」

「群司、昨日のことも聞いてた」

「うん」

「私が言ったこと……」

「…………」

 顔が熱くなる。

「多分、全部」

「そっか」

「恥ずかしい……」

「…………」

「もうやだ」

「そんな気にしなくていいよ」

「でも……」

「群司に見られたからって、亜美が変わるわけじゃないだろ」

「…………」

 亜美は丈を見る。

 いつもと同じ顔。

 責めない。

 笑わない。

 問い詰めない。

 群司と別れてからずっと速かった心臓が、ようやく落ち着いていく。

「……うん」

「落ち着いた?」

「ちょっと」

「よかった」

 丈が笑う。

 亜美は小さく息を吐いた。

 やっと。

 息ができる。