忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―

「……っ」

 亜美の身体が止まる。

「離して……」

「…………」

「群司」

 離さなければ。

 分かっている。

 亜美は怖がっている。

 それなのに指が動かなかった。

「離してって……」

 群司は亜美を見る。

 近い。

 揺れる瞳も震える声も、全部が近すぎた。

「…………」

 好きなのに。

 何で、こんなに腹が立つんだよ。

 丈のことも。

 昨日の亜美も。

 頭から離れない。

「…………」

 やめろ。

 思い出すな。

 そう思うほど、あの声が蘇る。

 あの顔が浮かぶ。

「……群司?」

 亜美の声。

 目の前には、ずっと好きだった亜美がいる。

「…………」

 好き。

 好きだ。

 溢れた。

 群司は亜美を引き寄せた。

「え――」

 そのまま唇を重ねた。

「……っ」

 突然のことに、亜美の頭が真っ白になる。

 考えるより先に。

 ほんの一瞬だけ、そのキスに感じる。

「…………」

 群司の唇に、かすかに返ってくる感触。

 胸が強く鳴った。

 そのとき。

 亜美の中に、さっきの言葉が戻ってきた。

『ずっと、亜美が好きだった』

「…………!」

 群司。

 そうだ。

 今ここにいるのは、群司。

「……っ!」

 亜美は群司の胸を強く押した。

 二人の唇が離れる。

 すぐに後ろへ下がり、自分の唇を押さえた。

「…………」

 一瞬。

 群司は動けなかった。

 唇に残る、わずかな感覚。

 けれど目の前の亜美を見て我に返った。

「亜美……」

「……何で」

「…………」

「何でこんなことするの……」

 声が震えている。

「ごめん」

 群司が一歩近づこうとする。

「来ないで」

「…………」

 足が止まった。

 亜美は唇を押さえたまま群司を見る。

 その目が痛かった。

 好きだと伝えたかった。

 それだけだったはずなのに。

 自分で壊した。

「…………」

 亜美が踵を返す。

「亜美」

 呼んでも止まらない。

「待って」

 追いかけようとして、群司は足を止めた。

 今、亜美が逃げているのは自分からだ。

 その背中は文化祭の人混みへ消えていった。

「…………」

 群司は一人、その場に残った。

「……何やってんだよ」

 小さな声が落ちる。

 頭に残っているのは、逃げていった亜美の顔だった。