忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―

「……昨日」

「え?」

 群司の声が低く落ちた。

「丈って人と一緒にいただろ」

「…………」

 亜美の顔が固まる。

「何で……」

「見たから」

「…………」

「俺、見てた」

 亜美の目が大きくなった。

「いつ……?」

「その人が来たところ」

「…………」

 来たところ。

 じゃあ。

 いつまで。

「……聞いてた?」

「聞いた」

「…………」

 指先が冷たくなる。

『……して』

『いつもの』

『今は、先生がいい』

 どこまで聞かれたの。

 何を見られたの。

 考えるほど怖くなり、亜美は俯いた。

「何で……」

「何でって?」

「何で見てたの……?」

「気になったから」

 群司の声はまだ低い。

 怒っているというより、何かを押し殺しているように聞こえた。

「練習のあと、亜美のことが気になって」

「…………」

「そしたら、その人が急いで出ていったから」

 だから追った。

 その先に亜美がいた。

「丈って人」

「…………」

 名前を出されただけで、亜美の肩が揺れる。

「亜美の何?」

「……何って……」

「どういう関係?」

「…………」

 静かな声。

 けれど硬い。

 答えを待つ群司の目を、亜美は見られなかった。

「付き合ってんの?」

「……付き合って、ないよ……」

「じゃあ何なんだよ」

「…………」

「昨日のあれ、何なんだよ」

「群司……」

「『いつもの』って何?」

「…………」

 さらに低くなった声に、亜美の身体が強張った。

 いつもの。

 群司には、その言葉の意味が分からない。

 分からないからこそ、昨日から頭に残っていた。

「何であんなこと言ったんだよ」

「……やめて」

「亜美」

「やめてよ……」

 亜美は一歩下がる。

 群司の声に、少しずつ苛立ちが滲み始めていた。

「何なんだよ、あの人」

「…………」

「亜美とどういう関係なんだよ」

「……分かんない」

「え?」

「私も……分かんないから」

 声が震える。

 最初は幸也のことを相談していただけだった。

 知らないことを教えてもらい、丈の言うことなら大丈夫だと思った。

 いつの間にか、それが当たり前になった。

 でも。

 そんなことを群司に説明できるはずがない。