忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―

 文化祭当日。

 大学の中は、朝からいつもと違っていた。

 人の声。

 音楽。

 模擬店から漂う甘い匂い。

 色とりどりの看板。

 どこを見ても人がいて、笑い声が聞こえる。

 その中を、

 亜美は走っていた。

「すみません、通ります……!」

 両手には、ダンスサークルで使う荷物。

 朝からずっと忙しい。

「亜美ちゃん、それこっち!」

「はい!」

 先輩マネージャーに呼ばれて、亜美は荷物を運ぶ。

「飲み物は?」

「さっき確認しました。大丈夫です」

「ありがと! じゃあ次、タオルお願い」

「はい!」

 返事をして、

 また動く。

 少し離れたところでは、寧々も出演者の荷物を確認していた。

「寧々先輩」

「ん?」

「こっち終わりました」

「ありがとう。じゃあ亜美ちゃん、次これお願いしてもいい?」

「はい!」

「急がなくて大丈夫だからね」

「分かりました」

 亜美は受け取ったものを抱える。

 走って。

 運んで。

 確認して。

 また呼ばれて。

「…………」

 忙しい。

 でも、

 それでよかった。

 忙しい方が、

 何も考えなくて済むから。