忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―

 どれくらい、

 時間が経ったのか。

 亜美には分からなかった。

 気づけば、

 部屋は静かになっていた。

 さっきまで乱れていた呼吸も、

 もう落ち着いている。

 亜美は丈のそばで、

 ぼんやりと天井を見ていた。

 丈の手が、

 亜美の黒髪を撫でる。

「先生」

「ん?」

「……聞かないの?」

「何を?」

「今日、何があったか」

 丈は亜美を見る。

「話したくなったら話すだろ」

「…………」

「だから待ってた」

「……そっか」

 亜美は目を伏せた。

 何も説明できないまま呼んだ。

 泣いて、

 忘れたいと。

 自分から丈を求めた。

 それでも、

 丈は何も聞かなかった。

 亜美は小さく息を吸う。

「幸也先輩に」

「うん」

「告白した」

「…………」

「振られた」

「そっか」

 丈の声は、

 いつもと変わらなかった。

「ちゃんと言ったよ」

「うん」

「高校生の頃から好きでしたって」

「言えたんだ」

「うん」

「頑張ったじゃん」

 亜美は目元を押さえた。

「それ言わないで」

「何で?」

「また泣きそうになる」

「じゃあ言わない」

 少しだけ、

 笑えた。

「何て言われた?」

「……付き合えないって」

「うん」

「私のこと、嫌いだからじゃないって」

「そっか」

「お兄ちゃんの妹だからって言われた」

「直充の?」

「うん」

「でも」

 亜美は続ける。

「じゃあ、お兄ちゃんの妹じゃなかったら付き合ってくれたのって聞いた」

「うん」

「それでも、たぶん断ってたって」

「…………」

「私だからって」

 丈の目が、わずかに細くなる。

「亜美だから?」

「うん」

「へえ」

「意味分かんないでしょ?」

「まあ」

「私も分かんない」

 亜美は天井を見る。

「聞いても、ちゃんと教えてくれなかった」

「そっか」

「うん」

 少し沈黙が落ちる。

「でも」

「ん?」

「無かったことにしたいって言った」

 丈が亜美を見る。

「告白したこと?」

「うん」

「先生が言ってたから」

「俺?」

「なかったことにできたらいいねって」

 丈は少しだけ目を細めた。

「覚えてたんだ」

「そのときは、そんなことできるのかなって思ってたけど」

「うん」

「幸也先輩と、もう話せなくなる方が嫌だった」

「…………」

「だから、今まで通りにしたいって言った」

「幸也は?」

「いいよって」

「そっか」

「明日も」

 亜美は丈を見る。

「ステージ、見に行く」

「…………」

「絶対見に行くって約束したから」

「うん」

「楽しみにしてたし」

「…………」

「今まで通りにするって決めたから」

 丈は何も言わず、

 亜美を見ていた。

 振られて、

 泣いて。

 自分を求めて。

 それでも明日になれば、

 亜美は幸也のところへ行く。

「…………」

 丈はいつものように笑った。