忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―

 少し離れた場所で、

 群司の足が止まった。

 今度は、

 聞こえた。

 亜美の声が。

「何を?」

 丈が聞く。

「…………」

 分かっているくせに。

 亜美はそう思った。

 でも今は、

 言葉にすることすら、どうでもよかった。

「いつもの」

「…………」

「先生が、いつもしてくれること」

 群司の表情が固まった。

 ――いつもの?

 その言葉だけが、

 頭の中に残った。

 何だ。

 それ。

 いつも、

 何をしてる。

「……今、結構ぐちゃぐちゃだろ」

「分かってる」

「あとで後悔しない?」

「…………」

「亜美」

「いい」

 亜美が丈の服を強く握る。

「今は、先生がいい」

「…………」

 群司の胸の奥に、

 何かが突き刺さった。

 亜美が、

 自分から丈を求めている。

 しかも。

『いつもの』

 初めてじゃない。

 何なんだ。

 この二人。

 いつから、

 自分の知らないところで、

 何があった。

 そのとき、

 丈が顔を上げた。

 視線が、

 まっすぐ。

 群司へ向く。

「…………!」

 目が合った。

 今度は、

 気のせいじゃない。

 丈は確実に、

 群司を見ている。

 ――知ってた。

 こいつ。

 俺がいること。

 丈は何も言わない。

 亜美にも教えない。

 ただ一瞬、

 群司を見たあと。

 何事もなかったように亜美へ視線を戻した。

 群司の拳が強く握られる。

 丈が亜美の肩に手を添える。

「行こうか」

 亜美は答えなかった。

 ただ、

 丈の服を掴んだまま離さなかった。

 丈はそれを見て、

 歩き出した。

 亜美もついていく。

「…………」

 群司は動けなかった。

 もう、

 追わなかった。

『……して』

『いつもの』

『先生が、いつもしてくれること』

『今は、先生がいい』

 聞かなければよかった。

 そう思った。

 でも、

 もう聞いてしまった。