忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―

「幸也先輩」

「ん?」

 亜美が顔を上げた。

「お願いがあります」

「何?」

「…………」

 一度、息を吸う。

「今の」

「うん」

「無かったことにしませんか」

「…………」

 幸也が亜美を見る。

「告白」

「…………」

「私が幸也先輩を好きって言ったこと」

 胸が痛い。

 自分で、自分の気持ちを消しているみたいだった。

「無かったことにしたいです」

「…………」

 できるはずがない。

 そんなこと、亜美にも分かっていた。

 高校生の頃からずっと好きだった。

 大学へ来る理由になった。

 もう一度会いたくて、あの音を聴きたくて。

 もっと知りたくて。

 ここまで来た。

 そんな気持ちを、たった一言で無かったことになんてできるはずがない。

 それでも。

 そうしなければ、何かが終わってしまいそうだった。

「だから」

 亜美が続ける。

「これまで通り、また聴きに来てもいいですか?」

「…………」

 幸也は亜美を見ていた。

「今までみたいに、ここに来て」

「…………」

「幸也先輩と話して」

「…………」

「聴かせてください」

 最後だけ、声が小さくなった。

 幸也はすぐには答えなかった。

 今まで通り。

 その言葉が胸に残った。

 ――来るんだ。

 もう来ないかもしれないと、思っていた。

 だから、その言葉を聞いた瞬間。

 胸のどこかが少しだけ緩んだ。

「……いいよ」

「…………」

 亜美が顔を上げる。

「本当ですか?」

「うん」

「来ても?」

「別にいいよ」

「…………」

「今まで通り来れば?」

「…………」

 亜美の表情が少しだけ緩んだ。

「……よかった」

 小さく笑った。

 その顔を見て。

 幸也も、少しだけ安心した。

 そのことは亜美には言わなかった。