忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―

 幸也は亜美を見ていた。

「…………」

 これでよかった。

 そう思っている。

 亜美ちゃんは、自分が適当に扱っていい相手じゃない。

 初めて会ったときから、自分の音をまっすぐ聴いていた。

『もっと聴きたかった』

 そう言った。

 音大に落ちたことを話しても、変に慰めなかった。

『私は好きです』

 あのときも、そう言った。

 それから何度も、キーボードを聴きに来るようになった。

 話すことも増えた。

 からかえば分かりやすく反応する。

 むっとすることもあるし、笑うこともある。

 いつの間にか、それが当たり前になっていた。

 彼女の告白を。

 断った。

 それなのに、俯いた亜美を見て、幸也は初めて別のことを考えた。

 これで。

 亜美ちゃんは、もう来なくなるんだろうか。

「…………」

 キーボードを弾いていても、扉の向こうで待っていることもない。

 弾き終わっても。

『もっと聴きたかった』

 なんて、言われることもない。

 くだらないことでからかうことも、少しむっとした顔を見ることもなくなる。

「…………」

 仕方ない。

 自分が断ったのだから。

 分かっている。

 それなのに。

 少し、寂しいと思った。

 自分でも意外なくらいに。