忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―

「亜美ちゃん」

「はい」

「俺がどういうやつか、知ってる?」

「…………」

 亜美は幸也を見る。

 知っている。

 全部ではない。

 でも、少しは。

 女の人に人気があることも、いろんな女の人と一緒にいることも。

 丈から聞いたこともある。

『幸也は遊び人だよ』

 それでも、好きになった。

 知っても。

 好きだった。

「俺、別に」

 幸也は少しだけ視線を逸らした。

「ちゃんとしてないから」

「…………」

「そういうやつ」

「…………」

「でも」

 亜美の指が、ぎゅっとスカートを掴んだ。

「それと、お兄ちゃんに何の関係があるんですか?」

「…………」

「私が幸也先輩を好きなのに」

「うん」

「お兄ちゃんは関係ないです」

「亜美ちゃんにはね」

「…………」

「俺には関係ある」

「…………」

 言い返せなかった。

 幸也には、幸也の考えがある。

 亜美がどれだけ好きでも、そこを変えることはできない。

 それでも。

 納得はできなかった。

「……じゃあ」

 亜美は顔を上げた。

「私がお兄ちゃんの妹じゃなかったら」

「…………」

 聞くのが怖い。

 でも、聞かずにはいられなかった。

「付き合ってくれたんですか?」

「…………」

 幸也の表情が止まった。

 少しだけ考えるように、亜美を見る。

「……いや」

「…………」

「たぶん、断ってた」

「…………」

 胸の奥が、また痛んだ。

 さっきより深いところを、刺されたような気がした。

「……どうして?」

「…………」

「お兄ちゃんの妹じゃなくても、駄目なんですか?」

「うん」

「…………」

「たぶんね」

「……どうして?」

「…………」

 幸也は少しだけ目を細めた。

「亜美ちゃんだから」

「…………」

 意味が分からなかった。

「私だから?」

「うん」

「……どういう意味ですか」

「…………」

 幸也は答えなかった。

「私だから駄目って、分かりません」

「そうだろうな」

「じゃあ、教えてください」

「…………」

 幸也は少し困ったように、亜美を見る。

「俺と付き合うのは、違うでしょ」

「何が違うんですか」

「…………」

「私は幸也先輩が好きなのに」

「うん」

「だったら……」

「だからだよ」

「…………」

 亜美の言葉が止まった。

 だから。

 何が、だからなのか。

 分からない。

 好きだから、付き合いたい。

 亜美にとっては、それだけだった。

 高校生の頃からずっと幸也を見ていた。

 もう一度会いたいと思った。

 あの音を、もう一度聴きたいと思った。

 もっと知りたいと思った。

 同じ大学へ来た。

 会えるようになった。

 話せるようになった。

 名前を呼んでもらえるようになった。

 そして。

 好きだと伝えた。

 なのに。

 好きだから、駄目。

 その意味が、亜美には分からなかった。