忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―

「……亜美ちゃん」

「はい」

 幸也の声は、いつもより少し低かった。

 亜美は幸也を見ていた。

 逃げないように。

 ちゃんと、答えを聞くために。

「俺……」

 幸也がそこで一度、言葉を止める。

「…………」

 ほんの数秒。

 それなのに、亜美にはひどく長く感じた。

 胸の奥で、さっきまで激しく鳴っていた心臓が、今は別の意味で苦しい。

 幸也は少しだけ視線を落とした。

 それから。

「……ごめん」

 短く、言った。

「…………」

 分かってしまった。

 その一言だけで、このあと何を言われるのか。

 全部。

「亜美ちゃんとは、付き合えない」

「…………」

 胸の奥が、ぎゅっと縮んだ。

 痛い。

 そう思った。

 胸なんて触られていないのに。

 どこも怪我なんてしていないのに。

 ちゃんと、痛かった。

「……そっか」

 声が思ったより普通に出た。

 それが、自分でも不思議だった。

 もっと何も言えなくなると思っていた。

 でも亜美は、幸也の前にちゃんと立っていた。

「…………」

 幸也は何も言わなかった。

 いつもなら、亜美が黙れば何か言う。

 少し笑って、軽い調子で言葉をくれる。

 でも今は、何も言わない。

「……理由」

 亜美は静かな声で聞いた。

「聞いてもいいですか?」

「…………」

「私のこと」

 一度、言葉が止まる。

「嫌いだから?」

「違う」

 すぐだった。

 幸也が亜美を見る。

「それは違う」

「…………」

 あまりにも迷いがなかった。

 そのことが、少しだけ嬉しかった。

 でも。

 だったら、どうして。

「じゃあ……どうして?」

「…………」

 幸也は少し黙った。

 そして。

「直充の妹だから」

「…………」

 一瞬、意味が分からなかった。

「……お兄ちゃん?」

「うん」

「どうして、お兄ちゃんが関係あるんですか?」

「…………」

 幸也はすぐには答えなかった。

 何を、どこまで言うか。

 考えているように見えた。