忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―

「…………」

 その顔を見て。

 亜美は気づく。

 たぶん。

 もう。

 分かっている。

 これから。

 自分が何を言おうとしているのか。

 幸也は。

 分かっている。

 だから。

 何も言わない。

「…………」

 怖い。

 逃げたい。

 でも。

 ここで。

 やめたくない。

「私」

 亜美は。

 幸也を見る。

「高校生の頃から」

「…………」

 心臓が。

 痛い。

 息が。

 苦しい。

 それでも。

 目を逸らさなかった。

「幸也先輩が好きでした」

「…………」

 言った。

 ついに。

 言えた。

「ずっと」

 声が。

 震える。

「好きです」

「…………」

「今も」

 もう。

 隠さなくていい。

 幸也に会いたかった。

 あの音を聴きたかった。

 同じ大学へ来たかった。

 もっと話したかった。

 もっと見てほしかった。

 特別になりたかった。

 全部。

 好きだったから。

「幸也先輩が」

 亜美は。

 もう一度。

 ちゃんと言った。

「好きです」

「…………」

 静かだった。

 文化祭前日の大学。

 廊下の向こうでは。

 まだ誰かが準備をしている。

 声がする。

 笑い声も。

 物を運ぶ音も。

 聞こえるはずなのに。

 亜美には。

 何も聞こえなかった。

 幸也だけを。

 見ていた。

「…………」

 返事が。

 怖い。

 それでも。

 聞きたい。

 好きだと。

 言えた。

 それだけで。

 胸がいっぱいだった。

 幸也が。

 ゆっくり息を吐く。

「……亜美ちゃん」

「はい」

 名前を呼ばれた。

「…………」

 何度も。

 呼ばれてきた名前。

 初めて会った日から。

 ずっと。

『じゃ、またな。亜美ちゃん』

 あの日。

 たったそれだけで。

 胸が鳴った。

 今だって。

 同じ。

 好きな人に。

 名前を呼ばれるだけで。

 嬉しい。

 なのに。

「…………」

 今の声は。

 いつもと。

 少し違った。

 軽くない。

 からかうような響きもない。

 ただ。

 静かだった。

「俺……」

「…………」

 そこで。

 幸也の言葉が止まった。

「…………」

 亜美は。

 何も言わずに待った。

 幸也が。

 こんなふうに。

 言葉に迷うところを。

 ほとんど見たことがなかった。

 いつだって。

 少し笑って。

 何でもないことみたいに話す。

 そんな人だった。

 だから。

 分かってしまった。

「…………」

 胸の奥に。

 小さな不安が。

 落ちる。

 幸也は。

 何かを言おうとして。

 やめた。

 視線を。

 ほんの少しだけ逸らす。

 そして。

 もう一度。

 亜美を見る。

「…………」

 その顔を見ながら。

 亜美は。

 待った。

 ずっと好きだった人の。

 答えを。

 逃げずに。

 聞くために。