忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―

「待った?」

「……少しだけ」

「ずっと外で待ってた?」

「はい」

「声かけてくれればよかったのに」

「でも、明日の話してたから」

「亜美ちゃんなら別に邪魔じゃないって」

「…………」

 その言葉に。

 胸が。

 小さく鳴った。

 ――邪魔じゃない。

 それだけの言葉なのに。

 今の亜美には。

 少しだけ。

 特別な意味に聞こえてしまう。

 幸也は。

 そんな亜美の気持ちには気づかないまま。

 いつものように笑っていた。

「で?」

 幸也が鞄を持つ。

「話って何?」

「…………」

 心臓が。

 跳ねた。

「ここでいいですか?」

「ここ?」

「はい」

「別にいいよ」

「…………」

 亜美は。

 キーボードを見る。

 初めて。

 幸也に会った場所。

 あの日も。

 ここにいた。

 扉の外で。

 音を聴いていた。

 もっと聴きたい。

 そう思った。

 あのときは。

 まだ。

 この気持ちが何なのか。

 知らなかった。

「…………」

 でも。

 今は。

 知っている。

「幸也先輩」

「ん?」

「私……」

 声が。

 震えた。

「…………」

 言えない。

 言わなきゃ。

 怖い。

 好き。

 いろんな気持ちが。

 胸の中で。

 ぐちゃぐちゃになっている。

「亜美ちゃん?」

「……はい」

「大丈夫?」

「…………」

 幸也の声が。

 少しだけ。

 柔らかくなる。

「何かあった?」

「違います」

「そっか」

「…………」

 言わなければ。

 幸也は待ってくれる。

 急かさない。

 だから。

 余計に。

 胸が苦しくなる。

「私」

 一度。

 息を吸う。

「幸也先輩に初めて会った日のこと」

「うん」

「覚えてますか?」

「大学見学のとき?」

「……はい」

「覚えてるよ」

「…………」

 その一言だけで。

 胸の奥が。

 熱くなった。

 覚えてる。

 幸也も。

 あの日を。

 覚えていてくれた。