忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―

 軽音サークルの部室。

 亜美は。

 扉の外で待っていた。

「…………」

 中から。

 声が聞こえる。

 明日の確認をしているらしい。

 時々。

 笑い声も聞こえる。

 亜美は。

 壁際に立ったまま。

 手を握る。

 開く。

 また。

 握る。

「…………」

 帰りたい。

 今なら。

 まだ。

 帰れる。

 明日になれば。

 文化祭。

 幸也のステージを見て。

 今まで通り。

 部室へ来て。

 話して。

 あの音を聴いて。

 それでいい。

 何も。

 変えなくていい。

「…………」

 そう思うのに。

 足は。

 動かなかった。

 ここまで来た。

 自分で。

 会いたいと送った。

 好きだと。

 ちゃんと伝えたいと思った。

 丈に相談する前から。

 自分が。

 そうしたいと思った。

「…………」

 怖い。

 それでも。

 言いたい。

 好きだから。

 幸也先輩に。

 知ってほしい。

 私が。

 どれだけ。

 あなたを好きなのか。

「…………」

 亜美は。

 小さく息を吐いた。

 そのとき。

 中から声が聞こえた。

「じゃあ明日な」

「お疲れー」

「遅刻すんなよ」

「お前もな」

 扉が開く。

 亜美は。

 少し端へ寄った。

 軽音サークルのメンバーが。

 次々に出てくる。

「お、亜美ちゃん」

「お疲れさまです」

「明日来る?」

「はい」

「幸也のファン多いから、早めに来た方がいいよ」

「え」

「お前、余計なこと言うなって」

 後ろから笑い声が飛ぶ。

「じゃあ明日ー」

「お疲れさまです」

 亜美は笑って。

 頭を下げる。

 幸也のファン。

「…………」

 知っている。

 幸也が。

 女の人に人気があることくらい。

 今までだって。

 何度も見てきた。

 それなのに。

 今。

 その言葉を聞くと。

 胸が。

 少しだけ苦しくなった。

 自分も。

 その中の一人なのだろうか。

 幸也にとっては。

 たくさんいる女の子の中の。

 一人。

「…………」

 嫌だ。

 初めて。

 はっきりそう思った。

 特別になりたい。

 幸也先輩にとって。

 自分だけは。

 少し違う人になりたい。

「…………」

 最後の一人が。

 部室から出ていく。

 静かになった。

 亜美は。

 開いた扉の向こうを見る。

 幸也がいた。

 キーボードの前。

 荷物を片づけている。

 そして。

 もう。

 亜美がそこにいることに。

 気づいていた。

「…………」

 目が合う。

 幸也が。

 ふっと笑った。

「…………」

 それだけで。

 胸が。

 大きく鳴った。

 ずるい。

 そんなふうに笑われたら。

 もっと。

 好きになってしまう。