忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―

 朝。

 教室の扉を開ける瞬間、亜美はいつも、ほんの少しだけ息を止める。

 今日も同じだった。

 扉の向こうには、すでにいくつもの輪ができている。

 机を寄せて話している女子たち。

 スマートフォンを覗き込みながら笑う男子たち。

 部活の朝練を終え、汗を拭きながら騒いでいる生徒たち。

 誰かが誰かを呼ぶ声。

 笑い声。

 昨日の続きを話す声。

 亜美が教室へ入ったことに気づいた何人かが、ちらりとこちらを見た。

 ほんの一瞬。

 目が合う前に、逸らされる。

 亜美は気づかなかったふりをして、自分の席へ向かった。

 鞄を置く。

 椅子を引く。

 座る。

 そして、イヤホンを耳につけた。

 流れてくるのは、いつもピアノ曲。

 音が耳を塞ぐ。

 それだけで、教室が少し遠くなる。

「…………」

 亜美は窓の外を見た。

 今日も暑くなりそうだった。