忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―

 あいつ。

 丈っていうのか。

「…………」

 名前。

 ただ。

 それだけ。

 たった二文字を知っただけなのに。

 あの日から。

 ずっと形のなかった男が。

 急に。

 輪郭を持った気がした。

 丈。

 誠星大学の学生。

 幸也と知り合い。

 そして。

 亜美とも。

 親しい。

「…………」

 何で。

 亜美と知り合いなんだろう。

 いつから?

 どういう関係?

 何も。

 分からない。

 分かったのは。

 名前だけ。

 なのに。

 知る前より。

 気になっている。

 そのとき。

 丈が。

 ふと顔を上げた。

「…………」

 群司の身体が。

 わずかに固まる。

 目が。

 合った。

 ――ような気がした。

 ほんの一瞬。

 丈の視線が。

 こちらへ向いた。

 でも。

 すぐに幸也へ戻る。

「…………」

 気のせいかもしれない。

 ただ。

 たまたま。

 こちらを見ただけかもしれない。

 それなのに。

 群司は。

 なぜか。

 その場からすぐに目を逸らせなかった。

 丈はもう。

 群司を見ていない。

 幸也と。

 何事もなかったように話している。

「…………」

 胸の奥に。

 妙なものが残った。

 あの日の亜美が。

 また浮かぶ。

 楽しそうだった。

 近かった。

 あの男のそばにいることが。

 当たり前みたいだった。

「…………」

 胸の奥が。

 重くなる。

 もしかして。

 本当に。

 丈が――。

「群司?」

「え?」

 後ろから声をかけられ。

 群司は振り返った。

 サークルのメンバーだった。

「何してんの?」

「あ……いや」

 もう一度。

 部屋を見る。

 丈は。

 幸也と何かを話していた。

 こちらには。

 もう。

 目を向けていない。

「何でもない」

「早く戻ろうぜ」

「うん」

 歩き出す。

「…………」

 丈。

 群司は。

 頭の中で。

 もう一度。

 その名前を繰り返した。