忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―

「亜美」

「ん?」

「これ、どこ置く?」

「それは……」

 亜美が顔を上げる。

「あっち」

「あっち?」

「あそこ」

「どこ?」

「……あ」

 亜美が瞬きをした。

 自分でも。

 おかしいことに気づいたらしい。

「ごめん」

「大丈夫?」

「うん」

「今日、何か変じゃない?」

「……変?」

「うん」

 群司は亜美の顔を覗き込む。

「何か、ずっと上の空」

「そうかな」

「そう」

「…………」

 亜美は。

 少しだけ視線を逸らした。

「緊張してるだけ」

「明日の?」

「……うん」

 嘘ではない。

 明日の文化祭も。

 もちろん緊張している。

 でも。

 今。

 胸の中をいっぱいにしているのは。

 今日のこと。

「そっか」

 群司はそれ以上聞かなかった。

「まあ、俺も緊張してるし」

「群司も?」

「するよ」

「しなさそう」

「どういう意味?」

「楽しんでそう」

「楽しみだけど、それとこれとは別」

「そうなんだ」

「そうです」

 少し偉そうに言う群司がおかしくて。

 亜美が笑う。

 群司も笑った。

「明日」

「うん」

「ちゃんと見ててよ」

「何を?」

「俺らのステージ」

「見るよ」

「ほんと?」

「マネージャーなのに見ないわけないでしょ」

「それもそうか」

 群司が笑う。

 それから。

 少しだけ。

 声を柔らかくした。

「じゃあ、ちゃんと見てて」

「うん」

 亜美は頷く。

「見てる」

「…………」

 その一言が。

 群司には。

 思っていたより。

 ずっと嬉しかった。