忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―

「群司、それそっち」

「はい」

「もうちょい右」

「ここ?」

「行きすぎ」

「どっちすか」

 文化祭前日。

 ダンスサークルも朝から慌ただしかった。

 ステージの最終確認。

 衣装。

 音源。

 立ち位置。

 必要な備品。

 何度確認しても。

 誰かが何かを思い出す。

「これでいいですか?」

「うん。ありがと」

「はい」

 群司は荷物から手を離し、腰を伸ばした。

 明日。

 いよいよ本番。

 何度も練習してきた。

 穂高先輩と。

 光成先輩と鉄先輩と。

 みんなで。

 楽しみだった。

 もちろん。

 緊張もしている。

 でも。

 それ以上に。

「…………」

 群司の視線が。

 少し離れたところへ向く。

 亜美がいた。

 資料を持って。

 何かを確認している。

 けれど。

「……?」

 さっきから。

 何となく。

 落ち着かない。

 資料を見ているかと思えば。

 スマートフォンを見る。

 また資料を見る。

 そして。

 ぼんやりする。

「群司」

「ん?」

「また亜美ちゃん見てる」

 光成だった。

「見てないです」

「え、見てたじゃん」

「見てないですって」

「鉄も見たよな?」

「見た」

「ほら。絶対見てたじゃん」

「…………」

 群司は苦笑する。

「別にいいじゃないですか」

「いいじゃん。俺ら応援してるし」

「それ、本人の前で言わないでくださいね」

「え、何で?」

「何でって……」

「嫌なの?」

「嫌っていうか……恥ずかしいんで」

「あ、そっか。じゃあ言わない」

「言わない」

 鉄も続く。

「……ありがとうございます」

「大丈夫だって。言わないから」

 光成はそう言うと。

 すぐに別の作業へ戻っていった。

 鉄も。

 そのあとをついていく。

「…………」

 群司は。

 その背中を見ながら少し笑って。

 もう一度だけ。

 亜美を見る。

 そして。

 あの日のことを思い出した。

 知らない男と。

 楽しそうに笑っていた亜美。

 誰なのか。

 分からなかった。

 見たこともない男だった。

 でも。

 亜美は知っていた。

 それも。

 かなり親しそうに。

『好きな人じゃないです!』

 サークルの自己紹介で。

 亜美はそう言った。

 好きな人じゃない。

 憧れの人。

「…………」

 ――あいつなのかな。

 そう思う。

 あの日。

 自分には見せたことのない顔で。

 亜美は笑っていた。

 思い出すたび。

 胸の奥に。

 ざらついたものが残る。