忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―

 帰宅して。

 亜美はベッドの上に座っていた。

 スマートフォンを持つ。

 幸也とのやり取りを開く。

「…………」

 文字を打つ。

 消す。

 また打つ。

 消す。

『文化祭の前日、少し時間ありますか?』

 それだけなのに。

 送れない。

「…………」

 心臓が。

 うるさい。

 まだ。

 告白するわけではない。

 会えるか聞くだけ。

 それなのに。

 指が動かない。

 丈の言葉を思い出す。

『先延ばしにしたら、また怖くなる』

「…………」

 確かに。

 もう。

 怖い。

 今だって。

 やめたくなっている。

 このままでいい。

 今まで通り。

 幸也先輩のところへ行って。

 話して。

 あの音を聴いて。

 それだけで。

 十分じゃないか。

 そう思う自分がいる。

 でも。

『待ってる』

「…………」

 幸也の顔が浮かぶ。

 もっと。

 自分を見てほしい。

 もっと。

 近くにいたい。

 幸也にとって。

 直充の妹ではなく。

 亜美として。

 特別になりたい。

「…………」

 亜美は。

 送信ボタンを押した。

「……送っちゃった」

 心臓が。

 跳ねる。

 すぐにスマートフォンを伏せる。

 見られない。

 返事が怖い。

 でも。

 気になる。

 数秒。

 我慢して。

 また画面を見る。

 まだ。

 返事はない。

「…………」

 長い。

 たった数十秒が。

 ものすごく長い。

 やっぱり。

 変だったかな。

 何の用って聞かれたら。

 何て言おう。

 そのとき。

 スマートフォンが震えた。

「……っ」

 亜美の肩が跳ねる。

 画面を見る。

 幸也。

 開く。

『いいよ』

「…………」

 たった三文字。

 それだけで。

 胸の奥が。

 大きく鳴った。

 その下に。

 もう一つ届く。

『練習終わったあとなら』

「…………」

 会える。

 文化祭の前日。

 幸也先輩に。

 会える。

 そして。

 その日。

 言う。

 ずっと。

 言えなかったことを。

 亜美は。

 スマートフォンを胸に抱いた。

「…………」

 怖い。

 逃げたい。

 でも。

 嬉しい。

 好き。

 その全部が。

 胸の中で混ざっていた。

「……言えるかな」

 誰にも聞こえない声で。

 呟く。

 返事はない。

 それでも。

 亜美はもう一度。

 幸也から届いた文字を見た。

 そして。

 小さく。

 息を吸った。

 文化祭前日。

 ずっと好きだった人に。

 この気持ちを。

 伝える。