忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―

 文化祭前日。

 亜美が。

 幸也に告白する。

 自分が。

 そう勧めた。

「…………」

 丈は。

 分かっている。

 亜美は幸也が好きだ。

 高校生の頃から。

 ずっと。

 何度。

 自分に触れられても。

 何度。

 自分のところへ来ても。

 亜美が恋をしているのは。

 幸也だ。

 それでも。

 亜美は。

 自分に相談する。

 幸也に会えたと。

 幸也と話したと。

 嬉しかったと。

 不安になったと。

 何でも。

 自分に話す。

 そして今も。

 幸也への告白を。

 自分に相談した。

「…………」

 それでいい。

 今は。

 それで。

 丈は前を歩く亜美を見る。

 長い黒髪が。

 歩くたびに揺れる。

「先生」

 亜美が振り返った。

「何?」

「ちゃんと来てよ」

「どこに?」

「歩くの遅い」

「亜美が速くなったんだろ」

「置いてくよ」

「はいはい」

 丈は歩く速度を上げる。

 亜美の隣へ戻る。

 それだけで。

 亜美は何事もなかったように前を向いた。

「…………」

 丈は。

 その横顔を見る。

 何も知らない。

 亜美は。

 自分が幸也の話をするたび。

 丈が何を思っているのか。

 自分が幸也を好きだと言うたび。

 丈の中で。

 何が積み重なっているのか。

 何も。

 知らない。

 そして。

 文化祭前日を勧めた理由も。

 亜美が思っているほど。

 単純ではなかった。