忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―

「…………」

 丈は少し考えるように黙った。

 けれど。

 考えていたのは。

 告白するべきかどうかではなかった。

 いつ。

 言わせるか。

「文化祭って今週だよな」

「うん」

「じゃあ」

 丈は何でもないことのように言った。

「前日に言えば?」

「…………」

 亜美が瞬きをした。

「前日?」

「うん」

「どうして?」

「当日は忙しいだろ?」

「忙しい」

「亜美もマネージャーあるし、幸也もステージある」

「うん」

「だったら前日がいいんじゃない?」

「…………」

 亜美は。

 考える。

 文化祭前日。

「でも」

「何?」

「振られたら」

「うん」

「次の日、文化祭だよ」

「だからいいんじゃん」

「え?」

 丈は笑った。

「次の日忙しいなら、落ち込んでる暇ないだろ」

「…………」

「一人でずっと考えなくて済む」

「……そういうもの?」

「そういうもの」

「本当に?」

「たぶん」

「たぶんって」

「絶対なんてないから」

「…………」

「でも」

 丈は。

 少しだけ声を柔らかくした。

「怖いなら、勢いがあるうちに言った方がいいよ」

「勢い」

「今、言いたいんだろ?」

「……うん」

「じゃあ」

 丈は亜美を見る。

「先延ばしにしたら、また怖くなる」

「…………」

 それは。

 分かる気がした。

「それに」

「?」

「文化祭の前日なら」

 丈は続ける。

「次の日に会う理由もあるだろ?」

「…………」

「ステージ見るんじゃないの?」

「あ」

「絶対見に行くんだろ?」

「……うん」

 亜美は頷く。

「絶対」

「なら」

 丈は笑った。

「もし気まずくなっても、会うきっかけは残る」

「…………」

 その言葉に。

 亜美の胸が。

 少しだけ軽くなった。

 告白して。

 もし。

 だめだったとしても。

 次の日には。

 幸也のステージがある。

 自分は。

 見に行くと約束した。

 幸也も。

 待ってると言ってくれた。

「……そっか」

「うん」

「前日か」

「いいと思うよ」

「…………」

 亜美は。

 文化祭の前日を思い浮かべる。

 幸也に会う。

 好きです。

 そう言う。

 想像しただけで。

 心臓が。

 速くなる。

「……無理かも」

「早いな」

「だって」

「まだ何日かある」

「何日あっても無理な気がする」

「じゃあやめる?」

「…………」

 亜美は黙った。

「やめる?」

 もう一度。

 丈が聞く。

「…………やめない」

「じゃあ決まり」

「先生が決めないで」

「亜美が今決めたじゃん」

「…………」

 確かに。

 そうだった。

 亜美は。

 小さく息を吐く。

「文化祭の前日」

「うん」

「……言ってみる」

「頑張れ」

「…………」

 丈は、少しだけ亜美を見る。

「まあ、だめだったら」

「…………」

「なかったことにできたらいいね」

「……なかったこと?」

「うん」

 丈は笑った。

「今まで通りに戻れたら、それでいいだろ」

「…………」

 亜美は少し考えて。

「……そうだね」

「うん」

「…………」

「何その顔」

「先生が普通に応援するから」

「応援しちゃだめ?」

「そうじゃないけど」

「じゃあ何」

「……分かんない」

 亜美は。

 少しだけ笑った。

「ありがとう」

「ん」

 丈も。

 笑った。