忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―

 好き。

 亜美が。

 幸也に。

 言う。

 分かっていた。

 ずっと前から。

 亜美が誰を見ているのか。

 何度も。

 本人の口から聞いてきた。

 幸也に会った。

 幸也と話した。

 幸也が笑った。

 幸也の音を聴いた。

 嬉しかった。

 もっと会いたい。

 亜美は。

 何の疑いもなく。

 その全部を丈に話してきた。

 そのたびに。

 丈は聞いた。

 笑って。

 からかって。

 ときには助言までして。

 ずっと。

 そばにいた。

 それでも。

 亜美の中にある。

 幸也への気持ちは。

 消えなかった。

 むしろ。

 同じ大学へ入って。

 また会えて。

 前よりも。

 大きくなっている。

「先生?」

「ん?」

「聞いてる?」

「聞いてるよ」

「何か考えてた?」

「告白ね」

 丈は。

 いつもの顔で笑った。

「いいんじゃない?」

「…………」

 亜美が。

 少し驚いた顔をした。

「いいの?」

「何で俺の許可がいるんだよ」

「許可じゃなくて」

「じゃあ何」

「先生なら……」

 亜美は少し言いにくそうにする。

「やめとけばって言うかなと思った」

「何で?」

「前に言ってたから」

 丈は。

 何のことか分かっていた。

「幸也先輩は、女の人と遊ぶ人だって」

「ああ」

「だから」

「それは今も変わってないんじゃない?」

「…………」

 亜美の表情が。

 少しだけ曇る。

 丈はそれを見逃さなかった。

「でも」

「え?」

「好きなんだろ?」

「…………」

「亜美が」

「……うん」

「だったら」

 丈は前を見る。

「俺がやめろって言って、やめられる?」

「…………」

 亜美は考えた。

 幸也を。

 好きでいることを。

 やめる。

「……無理」

「ほら」

「…………」

「じゃあ、言えばいいじゃん」

「そんな簡単に言わないでよ」

「簡単じゃない?」

「簡単じゃない」

「好きです、付き合ってください」

「先生」

「何」

「軽く言わないで」

「練習」

「しなくていい」

「俺相手にしといた方が、本番楽じゃない?」

「絶対嫌」

「即答かよ」

 丈が笑う。

 亜美も。

 少しだけ笑った。

 でも。

 すぐに。

 その笑顔が消えた。

「……怖い」

「何が?」

「振られるの」

「…………」

「言わなかったら」

 亜美は小さく言う。

「今のままでいられるでしょ?」

「まあね」

「部室に行って」

「うん」

「話して」

「うん」

「あの音を聴いて」

「…………」

「今みたいに」

 それが。

 なくなるかもしれない。

 そう思うと。

 怖い。

「もし告白して」

 声が。

 少しずつ小さくなる。

「振られたら」

「うん」

「もう会いに行けなくなるかもしれない」

「…………」

「それが嫌」

 好きだから。

 伝えたい。

 でも。

 好きだから。

 失いたくない。

 相反する気持ちが。

 胸の中で。

 ずっとぶつかっている。

「先生ならどうする?」

 亜美が聞いた。

「…………」

 丈はすぐには答えなかった。

 先生なら。

 どうする。

 亜美は。

 何の疑いもなく。

 自分に聞いている。

 いつもそうだった。

 分からないことがあれば。

 丈に聞く。

 困ったことがあれば。

 丈に話す。

 幸也のことも。

 恋のことも。

 全部。

「俺なら?」

「うん」