忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―

 塾の近く。

 亜美は丈の隣を歩いていた。

「それで?」

「…………」

「言いにくい話なんだろ?」

「うん」

「幸也のこと?」

「……なんで分かったの?」

「亜美がその顔で俺んとこ来るとき、大体そうじゃん」

「そんなことない」

「あるよ」

「…………」

 否定したものの。

 たぶん。

 ある。

 幸也に会えた日。

 幸也と話した日。

 嬉しかったことも。

 分からなかったことも。

 亜美は何度も丈に話してきた。

 丈なら聞いてくれるから。

 自分でもよく分からない気持ちを話しても。

 一緒に考えてくれるから。

「で?」

 丈が聞く。

「今日は幸也がどうした?」

「…………」

 亜美は少し俯いた。

 いつものように。

 話せばいい。

 そう思って来たのに。

 今日だけは。

 なかなか言葉が出てこなかった。

「先生」

「ん?」

「私……」

 一度。

 息を吸う。

「幸也先輩に、告白しようかなって」

「…………」

 丈の足が。

 一瞬だけ。

 止まりそうになった。

 ほんの一瞬。

 でも。

 止まらなかった。

 そのまま。

 亜美と同じ速度で歩く。

「……へえ」

「…………」

「ついに?」

「ついにって何」

「ずっと好きだったじゃん」

「……うん」

「だから」

 丈は笑う。

「やっと言う気になったんだなって」

「まだ決めてない」

「そうなの?」

「だから相談してる」

「俺に?」

「うん」

「幸也に告白するかどうかを?」

「…………」

 亜美は丈を見る。

「変?」

「いや」

 丈は少し笑った。

「亜美らしいなと思って」

「何それ」

「褒めてる」

「絶対違う」

「褒めてるって」

「先生、そういうとき信用できない」

「ひど」

 いつもの会話。

 いつもの丈。

 亜美は。

 気づかない。

 丈が笑いながら。

 ほんの少しだけ。

 奥歯を噛んだことに。