忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―

 文化祭まで。

 あと数日。

 亜美はスマートフォンのカレンダーを見ながら、小さく息を吐いた。

「…………」

 近づいている。

 楽しみにしていた日が。

 幸也のステージ。

 この前、幸也本人から出演すると聞いて。

『絶対見に行く!』

 そう言った。

『待ってる』

 幸也は笑ってくれた。

 思い出すだけで。

 胸の奥が、少しだけ温かくなる。

「…………」

 楽しみ。

 早く見たい。

 ステージの上にいる幸也を。

 あの音を。

 でも。

 文化祭が近づくにつれて。

 楽しみとは別の気持ちも。

 少しずつ、大きくなっていた。

 ――このままでいいのかな。

 亜美はスマートフォンの画面を消した。

 ずっと。

 好きだった。

 高校生の頃。

 大学見学で初めて会った日から。

 綺麗な音を鳴らす人。

 少し寂しそうに笑う人。

 自分にだけ。

 秘密を教えてくれた人。

 もう一度会いたくて。

 もう一度、あの音を聴きたくて。

 気づけば。

 誠星大学へ行きたいと思うようになった。

 受験勉強をして。

 合格して。

 同じ大学へ来て。

 また会えた。

 今では。

 部室へ行けば話せる。

 あの音も聴ける。

 名前を呼んでもらえる。

 高校生だった頃より。

 ずっと近くにいる。

 それなのに。

「…………」

 何も。

 変わっていない。

 幸也は先輩で。

 自分は直充の妹。

 それ以上でも。

 それ以下でもない。

 このまま。

 ずっと。

 幸也先輩を見ているだけなのかな。

 そう思った瞬間。

 胸の奥が。

 きゅっと狭くなった。