忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―

「群司」

 鉄に呼ばれる。

「……何すか」

「呼んだよ」

「あ、すみません」

「ぼーっとしてた?」

「してないっす」

 答えるのが。

 少し早かった。

 光成が群司を見る。

「してたじゃん」

「してないっすよ」

「じゃあ何考えてたの?」

「別に」

「ふーん」

 光成はそれ以上聞かなかった。

 鉄も。

 何も言わない。

「…………」

 群司は。

 また亜美を見る。

 亜美はもう。

 別の話をしている。

 いつもの顔に戻っていた。

 それなのに。

 群司の頭から。

 さっきの顔が離れない。

『絶対見に行きます』

「…………」

 文化祭。

 自分たちのステージが終わったら。

 亜美は行く。

 幸也を見に。

 その日を。

 楽しみにしている。

 胸の奥が。

 また。

 ざらついた。

 何で。

 そんなに見たいんだよ。

 何で。

 絶対なんだよ。

 聞きたい。

 でも。

 聞けない。

 亜美が誰を見たいのか。

 誰に憧れているのか。

 昨日。

 誰と一緒にいたのか。

 自分には。

 何かを言う権利なんてない。

「…………」

 それが。

 余計に。

 苦しかった。

 亜美が楽しそうにしているなら。

 それでいいはずなのに。

 大学に入って。

 友達ができて。

 楽しそうにしている亜美を見て。

 よかったと思っていた。

 なのに。

 その笑顔が。

 知らない男に向くと。

 嫌だ。

 幸也という名前だけで。

 あんなに嬉しそうな顔をすると。

 もっと。

 嫌だった。

「…………」

 群司は視線を落とす。

 分かっている。

 もう。

 分かっている。

 これは。

 ただ気になるだけじゃない。

 ずっと目で追って。

 大学で同じだと分かったとき。

 嬉しくて。

 サークルに誘って。

 近くにいられることが嬉しくて。

 亜美が笑えば。

 自分まで嬉しくなった。

 そして。

 その亜美が。

 別の男を見ているだけで。

 こんなに苦しい。

「…………」

 好きなんだ。

 やっぱり。

 俺。

 亜美が好きなんだ。

 気づいていたはずの気持ちが。

 今までよりも。

 ずっとはっきりと。

 胸の中に落ちた。

 その先で。

 亜美が笑っている。

 文化祭を楽しみにするように。

 幸也のステージを。

 楽しみにしている。

『絶対見に行きます』

 その言葉が。

 群司の胸に。

 いつまでも残った。