忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―

 ほんの一瞬で。

 分かるくらい。

 ぱっと。

 表情が明るくなった。

「亜美ちゃんも見る?」

 先輩が聞く。

「はい」

 亜美が頷く。

 迷わなかった。

「絶対見に行きます」

「…………」

 群司の胸が。

 ざらついた。

 絶対。

 その言葉が。

 妙に引っかかった。

「幸也先輩目当て?」

「え」

 亜美が少し驚いた顔をする。

「女の子、幸也先輩目当てで結構来るらしいよ」

「あ……」

 亜美は。

 少し困ったように笑った。

「そういうわけじゃ……」

 そこまで言って。

 少し黙る。

「…………」

 否定しきらなかった。

 群司には。

 そう見えた。

 亜美はそれ以上。

 何も話さなかった。

 幸也のことも。

 どうして見に行きたいのかも。

 自分からは。

 何も。

 ただ。

 もう一度スケジュールへ目を落とした。

 それだけ。

 なのに。

 群司には十分だった。

「…………」

 何だよ。

 その顔。

 昨日。

 見た。

 亜美の笑顔が浮かぶ。

 知らない男の隣で。

 楽しそうに笑っていた。

 あの人が。

 亜美の言っていた憧れの人なんじゃないかと思った。

 でも。

 今。

 幸也という名前を聞いた亜美も。

 嬉しそうだった。

「…………」

 分からない。

 誰なんだよ。

 亜美が。

 ダンスサークルに入った初日。

 自己紹介で言った。

『私も……憧れの人がいて』

 あのとき。

 初めて知った。

 亜美に。

 憧れの人がいることを。

 誰なのかは知らない。

 聞いたこともない。

 亜美も。

 自分から話したことはない。

 だから。

 昨日の男を見て。

 もしかしたらと思った。

 なのに。

 今度は。

 幸也。

「…………」

 胸の奥が。

 落ち着かない。

 昨日からずっと。

 知らないものが。

 次々と増えていく。

 亜美の隣にいた男。

 亜美が嬉しそうに反応する名前。

 自分の知らない亜美。

 高校から知っているのに。

 大学まで一緒なのに。

 ずっと近くにいたつもりなのに。

 自分は。

 亜美のことを。

 何も知らないんじゃないか。

 そんな気さえした。