忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―

 翌日。

 ダンスサークルでは。

 文化祭当日の動きを確認していた。

「俺らのステージ終わったら、次なんだっけ?」

 光成が全体スケジュールを覗き込む。

 鉄が紙を見る。

「軽音」

「ああ、軽音か」

 光成が頷く。

「今年も人すごそうだね」

「多いの?」

「多いんじゃない? 幸也先輩いるし」

「幸也先輩?」

「軽音の。鉄も知ってるでしょ」

「ああ」

 鉄が頷く。

「女の子に人気の人」

「そうそう」

「…………」

 亜美の手が。

 ほんの少しだけ止まった。

 女の子に人気。

 知らなかった。

 いや。

 考えたことがなかった。

 幸也が女の子に人気でも。

 何も不思議ではない。

 格好いいし。

 話しやすい。

 あんなふうに笑う。

 それに。

 あの音を聴いたら。

 好きになる人がいても。

 おかしくない。

「…………」

 胸の奥に。

 小さなものが引っかかった。

 何だろう。

 これ。

「亜美ちゃん?」

 光成に呼ばれる。

「え?」

「止まってるよ」

「あ……」

 手元を見る。

 ペンが止まっていた。

「ごめんなさい」

「疲れた?」

「ううん。大丈夫」

「そっか」

 鉄が亜美を見る。

「無理しないでね」

「ありがとう」

 亜美はもう一度。

 紙へ目を落とした。

 でも。

 さっきの言葉が。

 少しだけ残っていた。

 女の子に人気。

「…………」

 どうして。

 気になるんだろう。

 分からない。

 ただ。

 少しだけ。

 胸の中が落ち着かなかった。

 その少し離れたところで。

 群司は。

 三人の会話を聞いていた。

「…………」

 幸也先輩。

 初めて聞く名前だった。

 軽音サークル。

 女の子に人気の先輩。

 それだけなら。

 何も気にならなかったはずだった。

 でも。

 亜美の手が止まった。

 その名前が出た瞬間に。

「幸也先輩、今年も出るって聞いたよ」

 近くにいた先輩が会話に入る。

「やっぱり出るんだ」

 光成が言う。

 その瞬間。

 亜美が顔を上げた。

「…………」

 群司は。

 その顔を見ていた。

 嬉しそうだった。