忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―

「それに」

「ん?」

「最近、全然聴けてなかったから」

「俺の?」

「うん」

「聴きたかった?」

「…………」

 胸が。

 また鳴った。

 自分から言うのと。

 幸也に聞かれるのとでは。

 全然違った。

 急に。

 恥ずかしくなる。

 でも。

 嘘をつく理由はなかった。

「……聴きたかった」

 幸也が。

 ほんの少し黙った。

「…………」

 それから。

 ふっと笑った。

「そっか」

「はい」

「じゃあ、文化祭はちゃんと弾かないとな」

「いつもちゃんと弾いてください」

「弾いてるって」

「本当?」

「たぶん」

「たぶん?」

「冗談」

「もう」

 亜美が笑う。

 幸也も笑った。

「…………」

 嬉しい。

 会えたことも。

 話せたことも。

 幸也が自分に気づいてくれたことも。

 文化祭に出ると知れたことも。

 全部。

 嬉しかった。

「私」

「ん?」

 亜美は幸也を見る。

「絶対見に行く!」

 自分でも驚くほど。

 声が弾んだ。

「…………」

 幸也が目を瞬く。

 言ってから。

 少し恥ずかしくなった。

 普段なら。

『見に行きます』

 それくらいだったかもしれない。

 でも。

 楽しみだった。

 本当に。

 楽しみだった。

「絶対?」

「絶対」

「マネージャー忙しいんだろ?」

「それまでに終わらせます」

「無理すんなよ」

「無理じゃないです」

「そんなに?」

「そんなに」

 亜美は笑った。

「だって、見たいから」

「…………」

 幸也が。

 少しだけ黙った。

 それから。

 口元を緩める。

「じゃあ」

 亜美を見る。

「待ってる」

「…………」

 胸の奥が。

 きゅっとした。

 待ってる。

 たった一言。

 それなのに。

 思っていたよりも深く。

 胸の中へ入ってきた。

 自分が。

 見に行きたいだけだった。

 幸也にとっては。

 大勢いる観客の一人。

 そう思っていたのに。

 待ってる。

 幸也が。

 自分が来ることを。

 待っていてくれる。

「……はい」

 亜美は頷いた。

 嬉しくて。

 少し恥ずかしくて。

 それでも。

 今度はちゃんと幸也を見た。

「絶対、行きます」