忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―

「先生」

「今日は何?」

「分かりました」

「何が?」

 亜美は丈の前に座っていた。

 真剣な顔をしている。

 まるで、ずっと解けなかった問題の答えをようやく見つけたような顔だった。

「幸也先輩のこと」

 丈は何も言わない。

 亜美は少し恥ずかしそうに視線を落とした。

「私」

 一度、息を吸う。

「幸也先輩が好きみたいです」

 言った瞬間。

 亜美自身の胸が大きく鳴った。

 恥ずかしい。

 でも。

 少しだけ嬉しい。

 ずっと名前のなかった感情に、ようやく名前がついた。

「また会いたいし」

「うん」

「もっと演奏聴きたいし」

「うん」

「もっと知りたい」

「……うん」

「大学も」

 亜美は少しだけ笑う。

「誠星大学に行きたいって、前より思うようになりました」

「幸也がいるから?」

 聞かれて。

 亜美は少し迷ったあと、頷いた。

「……それも、あると思う」

 丈の胸の奥が、また小さくざわついた。

 亜美の未来の中に。

 自分ではない男が入り始めている。

「先生」

「何?」

「幸也先輩って、どんな人?」

 亜美は何の疑いもなく丈を見る。

「先生、知ってるんでしょ?」

「知ってるよ」

「教えて」

 その言葉に。

 丈は、ほんの少しだけ黙った。

 言おうと思えば、いろいろ言える。

 研究室での幸也。

 人当たりがよくて、誰とでも自然に話すこと。

 妙なところで要領がいいこと。

 気まぐれに人を手伝うこと。

 軽そうに見えて、意外と周囲を見ていること。

 そして。

 女性関係が派手なこと。

「……幸也は」

 丈はゆっくり口を開いた。

「亜美が思ってるより、遊んでるよ」

 亜美が瞬きをする。