忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―

「休憩!」

 音楽が止まった。

「疲れたー」

 光成がその場に座り込む。

 鉄は壁際のペットボトルを取った。

「鉄、俺のも」

「そこにあるよ」

「あ、ほんとだ」

 群司が呆れたように二人を見る。

「自分で取ってくださいよ」

「取るって」

 光成が笑いながらペットボトルを手にした。

 群司はタオルで汗を拭う。

 それから。

 何気なく亜美を見た。

「…………」

 また。

 あの紙を見ている。

 さっきから何度も。

 仕事の確認をしているだけかもしれない。

 亜美は真面目だから。

 一度確認したことでも。

 間違っていないか、何度も見る。

 それくらい。

 分かっている。

 なのに。

 何となく。

 気になった。

「亜美」

「ん?」

「何見てんの?」

「当日のスケジュール」

「何か変わった?」

「ううん」

 亜美は紙から顔を上げる。

「確認してただけ」

「そっか」

「うん」

 それだけ。

 亜美はまた紙へ視線を戻した。

 群司も、それ以上は聞かなかった。

「…………」

 少し前なら。

 こんなふうに名前を呼ぶだけでも。

 もう少し考えていた気がする。

 大学へ入って。

 同じサークルにいて。

 毎日のように顔を合わせて。

 今では普通に話す。

 冗談だって言う。

 亜美も笑ってくれる。

 少しずつ。

 近くなっている。

 そう思っていた。

 でも。

 昨日。

 見てしまった。

 亜美の隣にいた男。

 知らない男。

 そして。

 その隣で楽しそうに笑っていた亜美。

「…………」

 胸の奥が。

 また少しざらつく。

 あの人。

 誰なんだろう。

 ダンスサークルに入った初日。

 自己紹介で亜美は言っていた。

『私も……憧れの人がいて』

 あのとき。

 初めて知った。

 亜美に。

 憧れている人がいることを。

 誰なのかは。

 知らない。

 亜美から聞いたこともない。

 昨日の男を見て。

 もしかしたら。

 あの人なのかもしれないと思った。

「…………」

「群司」

「……何すか」

 鉄に呼ばれて顔を上げる。

「休憩終わるよ」

「あ、はい」

 群司は立ち上がった。

 考えても。

 分からない。

 分からないのに。

 気づけば。

 また亜美を見ていた。