忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―

 文化祭が近づくにつれて。

 大学の中が、少しずつ変わっていった。

 廊下には色とりどりのポスターが増え、中庭では大きな看板を運ぶ学生たちがいる。

 歩いているだけで、どこかから音楽が聞こえてくる。

 笑い声。

 誰かを呼ぶ声。

 慌ただしく走っていく人。

 普段と同じ大学なのに。

 少しずつ、特別な場所になっていくようだった。

 ダンスサークルも同じだった。

「もう一回、頭から!」

 声が飛ぶ。

 止まった音楽が、また最初から流れ始めた。

 床を踏む音。

 揃って動く身体。

 時々誰かが間違えて、笑い声が上がる。

 その少し離れたところで。

 亜美は床に座り、膝の上にファイルを広げていた。

 当日の集合時間。

 衣装。

 出演順。

 必要なもの。

 確認して。

 書き込んで。

 終わったものには印をつける。

「…………」

 忙しい。

 本当に。

 最近は一日があっという間だった。

 少し前までは、次から次へと頼まれることに慌てていた。

 けれど今は。

 少しだけ、分かるようになってきた。

 何を先にすればいいのか。

 誰に確認すればいいのか。

 自分が何をすれば、みんなが動きやすくなるのか。

 大変だけれど。

 嫌ではなかった。

 みんなが文化祭に向けて頑張っている。

 その中に。

 自分もちゃんといる。

 高校生だった頃には知らなかった感覚だった。

「亜美ちゃん」

「はい」

 呼ばれて顔を上げる。

 先輩が一枚の紙を差し出していた。

「これ、当日の全体スケジュール。マネージャーも持っといて」

「ありがとうございます」

「うちらのステージはここね」

「はい」

 受け取った紙へ目を落とす。

 いくつもの団体名。

 その横に、時間と場所。

 ダンスサークルの名前を見つけて、指で追う。

 集合。

 準備。

 本番。

 片付け。

「…………」

 頭の中で当日の動きを確認しながら。

 そのまま下へ視線を滑らせた。

 そして。

 指が止まる。

「……軽音」

 小さく呟いた。

 軽音サークル。

 その文字を見た瞬間。

 胸の奥が。

 とくん、と鳴った。

「…………」