忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―

「五、六、七、八!」

 音楽が響く。

 鏡の前で、何十人もの身体が動く。

 同じ振り。

 同じ方向。

 何度も。

 何度も。

「もう一回!」

 曲が止まって、また最初から始まる。

 亜美は壁際で、ペットボトルや荷物を確認しながら、その様子を見ていた。

 入ったばかりの頃とは少し違う。

 誰がどの学年なのか。

 誰がよく忘れ物をするのか。

 誰が練習のあとも残るのか。

 少しずつ、分かるようになってきた。

「亜美ー」

 呼ばれて、顔を上げる。

 群司だった。

「タオル取って」

「自分で取って」

「そこにあるじゃん」

「群司のすぐ後ろにもあるよ」

「…………」

 群司が振り返る。

「あった」

「あるじゃん」

「取ってくれてもよくない?」

「自分で取れるでしょ」

「冷たい」

「忙しいの」

「はいはい」

 群司が笑いながらタオルを取る。

 その向こうから、光成が顔を出した。

「亜美ちゃん、俺なら取ってくれる?」

「自分で取ってください」

「即答!」

「光成、邪魔」

 鉄が言った。

「邪魔って言うなよ」

「亜美ちゃん忙しそう」

「鉄は優しいなあ」

「うん」

「自分で言う?」

「だめ?」

「いいけど」

 また二人で話しながら戻っていく。

 亜美は少し笑った。

 最初は、こんなふうに話せるとは思っていなかった。

 大勢の人がいる場所は、今でも少し苦手だった。

 でも。

 ここでは名前を呼ばれる。

 頼られる。

 話しかけてもらえる。

 それが少しずつ、嬉しくなっていた。