忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―

 二人きりになれば。

 丈との距離は。

 もっと近くなる。

 触れられることにも。

 もう驚かない。

 名前を呼ばれることにも。

 その声に従うことにも。

 慣れていた。

「亜美」

「ん……」

「こっち見て」

 言われて。

 顔を上げる。

 丈の顔が近い。

 目が合う。

「何?」

「何でもない」

「じゃあ呼ばないで」

「いいじゃん、別に」

「…………」

 丈の指が。

 亜美の髪に触れる。

 そっと。

 耳にかけられる。

 ただ。

 それだけ。

 それだけなのに。

 身体はもう。

 その指を知っていた。

 触れられれば。

 丈を意識する。

 近づかれれば。

 自然と受け入れる。

 いつから。

 こうなったんだろう。

 最初は。

 知らないことを教えてもらっただけだった。

 分からないことを。

 丈が教えてくれた。

 それが。

 何度も続いて。

 いつの間にか。

 丈に触れられることは。

 亜美の中で。

 特別なことではなくなっていた。

 丈といると。

 落ち着く。

 考えなくて済む。

 どうすればいいのか。

 何をすればいいのか。

 丈が教えてくれるから。

「大学生になっても」

 丈が言った。

「何?」

「亜美、変わんないね」

「そう?」

「うん」

 丈が笑う。

「素直」

「…………」

「いい子」

 その言葉が。

 胸の奥に落ちる。

 じんわりと。

 温かくなる。

 昔から。

 そうだった。

 丈に褒められると。

 嬉しい。

「先生も変わらないね」

「俺?」

「うん」

「どこが?」

「……全部」

「適当」

「適当じゃない」

 亜美は少し考える。

「話聞いてくれるし」

「うん」

「教えてくれるし」

「うん」

「優しいし」

「…………」

 丈が少し笑った。

「俺、優しい?」

「優しいよ」

「そっか」

「うん」

 亜美は。

 迷わず答えた。

 丈は。

 ずっと優しい。