忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―

「先生」

「ん?」

「幸也さんに会えたよ」

 口にしただけで。

 自然と頬が緩んだ。

「よかったじゃん」

「また弾いてるところ聴けた」

「そっか」

「一人で弾いててね。私のことも覚えててくれたの」

「へえ」

「名前も覚えてた」

 嬉しかった。

 思い出すと。

 今でも。

 あのときと同じように胸が温かくなる。

「それで、また聴きに来てもいいって」

「よかったね」

「うん。だから、何回か聴きに行ってる」

 丈は。

 いつものように聞いていた。

「高校のときに聴いたのと違う曲だったけど」

「うん」

「やっぱり綺麗だった」

 静かな部屋。

 鍵盤の上を動く指。

 そこから流れてきた。

 あの音。

 思い出すだけで。

 胸の奥が少しだけ騒がしくなる。

「ずっと聴いてられる」

「好きだね」

「…………」

 その一言で。

 急に。

 自分の中にあるものを見つけられたような気がした。

 亜美は少し俯く。

「……うん」

 小さく答えただけなのに。

 頬が熱い。

 幸也に会えると。

 嬉しい。

 音を聴けると。

 もっと嬉しい。

 また行きたいと思う。

 また会いたいと思う。

 それを。

 先生には。

 全部話せた。

「先生」

「何?」

「この前ね、サークルでも聞かれた」

「何を?」

「好きな人いるのって」

「へえ」

「それで……」

 思い出した途端。

 別の意味で顔が熱くなる。

「好きな人じゃないですって言ったの」

「うん」

「そしたら、余計にいるって思われた」

 丈が笑った。

「それはそうでしょ」

「言ってから気づいた」

「亜美らしい」

「笑わないで」

「ごめん」

「笑ってる」

「ごめんって」

 まだ笑っている。

 亜美は少しだけ唇を尖らせた。

 恥ずかしかったのに。

 先生に話すと。

 あの日のことまで。

 少しだけ笑える。

「光成先輩っていう人がすごい聞いてくるの」

「うん」

「鉄先輩っていう人もいてね。二人、すごく仲良くて」

「へえ」

「雰囲気も全然違うのに、ずっと二人一緒にいる」

「面白そうだね」

「うん」

 大学であったこと。

 サークルであったこと。

 群司のこと。

 幸也のこと。

 一つ話せば。

 また一つ。

 話したいことが浮かぶ。

 丈になら。

 何でも話せた。

 嬉しかったことも。

 恥ずかしかったことも。

 少し困ったことも。

 昔から。

 ずっと。