忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―

「もう一回弾こうか?」

「え」

「聴きたいんでしょ?」

「…………」

 思わず。

 幸也を見る。

「いいんですか?」

「別にいいよ」

 幸也はまた椅子に座った。

「何がいい?」

「え」

「曲」

「……何でも」

「一番困るやつ」

「すみません」

「謝んなくていいって」

 幸也が笑う。

「じゃあ適当に弾く」

「はい」

 鍵盤に指が置かれる。

 亜美は。

 今度は扉の外ではなく。

 少し離れたところに座った。

 音が始まる。

「…………」

 さっきより。

 近い。

 一つ一つの音が。

 まっすぐ届く。

 幸也が。

 自分が聴いていると知っていて弾いている。

 それだけで。

 同じ音なのに。

 何かが違って聞こえた。

 嬉しい。

 ただ。

 嬉しかった。