忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―

 扉は少しだけ開いていた。

 中を覗く。

「…………」

 いた。

 誰もいない部屋で。

 一人。

 幸也がキーボードの前に座っていた。

 鍵盤に指を置いて。

 静かに弾いている。

 流れてくるのは。

 高校生のときに聞いたものとは違う曲。

 それでも。

 分かった。

 あの音だ。

「…………」

 胸の奥が。

 きゅっとなる。

 また。

 聴けた。

 ずっと聴きたかった。

 大学に入ったら。

 また会えるかもしれないと思っていた。

 また聴けるかもしれないと思っていた。

 そのために。

 ここへ来た。

 それなのに。

 本当に聞こえてくると。

 嬉しくて。

 少し苦しい。

 亜美は扉の外に立ったまま。

 ただ。

 聴いていた。

 鍵盤の上を動く指。

 少し伏せた目。

 時々。

 身体が小さく揺れる。

「…………」

 やっぱり。

 好きだと思った。

 この音が。

 幸也の弾くピアノが。