忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―

 練習が終わる頃には。

 外はもう暗くなっていた。

「疲れた?」

 群司が亜美のところへ来る。

「ちょっと」

「マネージャーも結構大変なんだね」

「まだ全然何もしてないよ」

「ずっと動いてたじゃん」

「覚えること多い」

「大丈夫?」

「うん」

 亜美は鞄を持つ。

「帰ろ」

「うん」

 二人で外へ出る。

 昼間より少し冷たい風が吹いていた。

「今日さ」

「うん」

「寧々先輩にいっぱい教えてもらった」

「よかったじゃん」

「でも覚えられる気がしない」

「そのうち覚えるでしょ」

「群司はいいよね」

「何が?」

「踊るだけだから」

「いや、踊るの大変なんだけど」

「好きなんでしょ?」

「好きだけど」

「じゃあいいじゃん」

「そういう問題?」

「そういう問題」

「適当だな」

「群司に言われたくない」

「何でだよ」

 亜美が笑う。

 いつも通り。

「…………」

 でも。

 群司は違った。

 隣を歩く亜美を見る。

 聞こうと思えば。

 聞ける。

 さっきの人。

 誰?

 同じ大学?

 高校のときから?

 どんな人?

 いくつも。

 聞きたいことが浮かぶ。

「…………」

「群司?」

「ん?」

「また静か」

「疲れた」

「筋肉痛?」

「それはもういいって」

「まだ痛いんでしょ」

「ちょっとだけ」

「やっぱり」

「笑うなよ」

「笑ってない」

「笑ってるじゃん」

 亜美が小さく笑う。

 結局。

 聞かなかった。

 聞けなかった。

 いつもと同じように。

 二人で並んで帰る。

 ただ。

 群司の中には。

 今までなかったものが残っていた。

 亜美には。

 誰かがいる。