忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―

「大学入って何かやりたいことある?」

 雑談の中で。

 寧々がそんなことを聞いた。

「俺は楽しいこと!」

 光成が即答する。

「広すぎない?」

「いいじゃん! 大学なんだから面白いこといっぱいやりたいだろ!」

「光成、ずっとそれ言ってるよ」

 鉄が笑う。

「鉄だって同じだろ?」

「うん。楽しい方がいい」

「ほら!」

「それでダンスサークル入ったの?」

 寧々が聞く。

「何か面白そうだったから!」

「俺も」

「軽いなあ」

「楽しけりゃいいんだって!」

「うん。それでいいと思う」

「だろ?」

 光成が満足そうに笑った。

「群司は?」

「俺ですか?」

「うん」

「ダンスは続けたいですけど」

「けど?」

「まだ大学始まったばっかなんで、他はよく分かんないです」

「真面目!」

「何でそれで真面目になるんですか」

「何となく!」

「適当すぎるでしょ」

 また笑いが起こる。

「亜美ちゃんは?」

「え?」

 急に話を振られて。

 亜美は少し考えた。

「何だろう……」

「何でもいいよ」

 寧々が言う。

「やりたいことでも、好きなものでも」

「好きなもの……」

「好きなタイプは!」

 光成が勢いよく言った。

「え」

「光成」

 穂高の声が飛ぶ。

「いいじゃん! 雑談だろ?」

「急に困らせるな」

「だって好きなものって言ったから!」

「人はものじゃないよ」

 鉄が言う。

「そこ!?」

「ちがうの?」

「そうだけど!」

 光成と鉄のやり取りに笑いが起こる。

 亜美も小さく笑った。

「で、亜美ちゃんは?」

「え?」

「好きなタイプ!」

「まだ聞くの?」

 寧々が笑う。

「だって気になるじゃん!」

「……タイプは」

 亜美は少し考える。

「分からないです」

「じゃあ好きな人は?」

「…………」

 その瞬間。

 浮かんだ。

 キーボードの前に座る横顔。

「…………」

 何も。

 答えていない。

 なのに。

 頬が熱くなっていく。

「あ!」

 光成が声を上げた。

「いや、絶対いるじゃん! 今の顔!」

「いるんだね」

 鉄まで頷く。

「違……」

「誰? 誰? 同じ大学?」

「どんな人なんだろ」

「待って」

 亜美は慌てた。

「好きな人じゃないです!」

「…………」

 一瞬。

 静かになる。

「……好きな人じゃない?」

 光成がにやっと笑った。

「え」

「ほら! やっぱいるじゃん!」

「…………」

「あ」

 言ってから。

 気づいた。

 自分で。

 余計なことを言った。

「誰だよ! めっちゃ気になる!」

「誰なんだろうね」

「だから……」

「同じ大学? 年上?」

「もう言わない」

 亜美は俯いた。

 顔が熱い。

 耳まで。

 きっと赤くなっている。

「亜美ちゃん真っ赤じゃん!」

「言わないで……」

「光成、その辺にしときなよ」

 寧々が笑いながら止める。

「だって気になるって!」

「困ってるでしょ」

「はーい」

「返事だけはいいね」

「鉄は黙ってろ!」

「なんで?」

 また笑い声が広がる。

 亜美は恥ずかしくて。

 まだ顔を上げられなかった。

 だから。

 気づかなかった。

 その隣で。

 群司が笑わなくなっていたことに。

「…………」

 誰か。

 いる。

 亜美に。

 誰か。

 群司の知らない人がいる。

 その事実が。

 思っていたより、ずっと重く胸に落ちた。

 今まで。

 亜美に好きな人がいるのかなんて。

 聞いたことがなかった。

 知らなかった。

「…………」

 群司は亜美の赤くなった横顔を見ていた。