忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―

 ダンスサークルに入って、数日。

「亜美ちゃん、それこっちお願いしていい?」

「はい」

「ありがと。そこ置いといてくれたら大丈夫」

 寧々に言われた通り、亜美は荷物を壁際へ運んだ。

 練習前の部屋は、今日も慌ただしい。

 音響の準備をする人。

 鏡の前で身体をほぐす人。

 集まって話している人。

 その間を行き来しながら、亜美は寧々に教えてもらったことを一つずつ覚えていた。

「次は……」

「亜美ちゃん」

「はい」

「そんな緊張しなくて大丈夫だよ」

「……してます?」

「してるしてる。顔が真剣」

 寧々が明るく笑う。

「最初なんだから、分かんなくて当たり前。何でも聞いてね」

「ありがとうございます」

「あと、敬語もそのうち取れたら嬉しいな」

「……頑張ります」

「そこ頑張るところなんだ」

 寧々がまた笑った。

 亜美もつられて少し笑う。

 寧々はよく笑う人だった。

 明るくて、話しやすい。

 亜美が分からないことを聞いても、嫌な顔をしない。

 まだ知らない人ばかりの場所で、その明るさに少しだけ助けられていた。

「これ、どこ置くんだっけ?」

 少し離れたところから声がする。

「あっちじゃない?」

「鉄、持って」

「光成が持ってきたんじゃん」

「いいじゃん、半分持ってよ」

「んー、いいよ」

「よし!」

 二人の男子学生が、一つの荷物を持って歩いていく。

「…………」

 亜美は少しだけその背中を見た。

 いつ見ても。

 二人でいる気がする。

「あの二人、仲いいですね」

「ん?」

 寧々が亜美の視線を追う。

「ああ。うん。だいたいいつも一緒にいるよ」

「そうなんですね」

「ほんとずっとあんな感じ」

「寧々、聞こえてるぞー!」

 光成が振り返る。

「聞こえるように言ったもん」

「悪口?」

「褒めてる」

「マジ?」

「たぶん」

「たぶんじゃん!」

「ふふ」

 鉄が隣で笑う。

「光成、うるさいよ」

「鉄、お前どっちの味方だよ」

「どっちでもいいかな」

「一緒に荷物持ってんだから俺の味方しろよ!」

「それ関係ある?」

「ある!」

「そうなの?」

「そうなの!」

 寧々が笑う。

 亜美も小さく笑った。

 最初に見学へ来たときより。

 少しだけ。

 この場所の空気が分かるようになってきた。