忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―

 帰り道。

「亜美」

「何?」

「ほんとに入ると思わなかった」

「まだ言うの?」

「だって亜美、サークルとかあんまり興味なさそうだったし」

「なかったよ」

「じゃあ何で入ったの?」

「…………」

 亜美は少し考える。

 今日会ったばかりの先輩。

 知らないサークルの人たち。

 初めて見る場所。

 一人だったら。

 きっと、マネージャーになろうなんて思わなかった。

「群司がいたから?」

「……え」

「一人だったら絶対入ってないと思う」

「…………」

「何?」

「いや」

「今日それ多いね」

「ごめん」

「別に謝らなくていいけど」

 群司は前を向いた。

 顔が少し熱い。

 亜美は何も知らない。

 何も考えずに、こういうことを言う。

 昔からそうだった。

「群司」

「ん?」

「楽しみ?」

「何が?」

「ダンス」

「ああ」

 群司は少し考えて。

「楽しみ」

 そう答えた。

「そっか」

「亜美は?」

「マネージャー?」

「うん」

「まだ分かんない」

「そっか」

「だって何するかよく分かってないもん」

「まあ、そうだよね」

「ちゃんとできるかな」

「大丈夫だと思うよ」

「何で?」

「俺もいるし」

「…………」

 亜美が群司を見る。

「何?」

「真似した?」

「何を?」

「この前、私が言ったこと」

「何だっけ」

「忘れたならいい」

「じゃあいいじゃん」

「絶対覚えてる」

「どうだろ」

 群司が笑う。

 亜美も笑った。

 春の夕方。

 まだ少し冷たい風の中を、二人で歩く。

 明日から。

 授業だけじゃない。

 新しいことが、また一つ始まる。

 群司が踊る場所で。

 自分はマネージャーをする。

 まだ、うまく想像できない。

 それでも。

「群司」

「ん?」

「誘ってくれてありがと」

「…………」

「何?」

「いや」

 群司は少しだけ笑った。

「どういたしまして」

 亜美も笑う。

 大学に入ってから。

 知らなかった群司を、一つ知った。

 ダンスができること。

 音楽が流れると、いつもとは違う顔をすること。