忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―

「経験者いる?」

 練習がひと段落したところで、先ほどの先輩が見学者たちに声をかけた。

 数人が手を挙げる。

 群司も、小さく手を挙げた。

「どれくらいやってた?」

「小さい頃から中学までです」

「ジャンルは?」

「いろいろやってました」

「じゃあ、ちょっとやってみる?」

「え」

 群司が固まる。

 亜美が隣から顔を覗き込んだ。

「やらないの?」

「……亜美、楽しんでるでしょ」

「ちょっと」

「正直だな」

「見たい」

「…………」

 群司は亜美を見る。

 真っ直ぐに見上げてくる目。

 本当に、ただ見たいだけなのだろう。

 それでも。

 その一言だけで、断る理由がなくなった。

「じゃあ、少しだけ」

「よし」

 先輩が笑う。

 見学者も交えて、簡単な振りを教えてもらう。

 亜美は壁際に座って眺めていた。

 最初は。

 本当に踊れるのかな。

 そんな軽い気持ちだった。

 群司が踊るところなんて、一度も見たことがない。

 高校では部活をしていたことも知っている。

 屋上で一緒に過ごした時間もある。

 それなりに群司のことを知っているつもりだった。

 でも。

 ダンスをしていたことさえ知らなかった。

「…………」

 音楽が流れる。

 その瞬間。

 亜美は目を見開いた。

 さっきまで隣で話していた群司とは、まるで違った。

 身体が自然に音を拾っている。

 何年も踊っていなかったはずなのに。

 覚えたばかりの振りにも、迷いが少ない。

 動きが大きくて。

 軽い。

 音が鳴るたびに、身体のどこかがそれに応える。

「…………」

 知らなかった。

 いつもは。

 隣でくだらないことを言って。

 少しからかってきて。

 亜美が怒れば笑って。

 屋上では、何でもない顔で隣にいた。

 その群司が。

 今は少し遠く見えた。

 悪い意味ではなく。

 知らない人を見ているような、不思議な感覚。