忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―

 放課後。

「こっち」

「ほんとに?」

「たぶん」

「たぶん?」

「チラシに書いてあるから合ってると思う」

「それなら大丈夫かな」

「不安なら一緒に探して」

「群司についてく」

「じゃあ行こ」

 群司が笑う。

 亜美はその少し後ろを歩きながら、辺りを見回した。

 授業で使う建物から少し離れた場所。

 初めて歩く道。

 知らない建物。

 大学は思っていたよりずっと広くて、まだどこを歩いていても新鮮だった。

 少し進むと、どこかから音楽が聞こえてくる。

「あ」

 群司が足を止めた。

「ここじゃない?」

 開いた扉の向こう。

 大きな鏡。

 床に置かれた荷物。

 何人もの学生が、音楽に合わせて身体を動かしている。

「……すごい」

 思わず声が出た。

 揃っている。

 速い曲なのに、一人一人の動きが音にぴったり重なる。

 身体全体で音を追いかけているみたいだった。

「見学?」

 突然声をかけられ、亜美は肩を揺らした。

「……はい」

 振り向くと、背の高い男子学生が立っていた。

 真面目そうな雰囲気なのに、どこか近寄りがたい。

 けれど、話し方は思っていたより柔らかかった。

「一年?」

「はい」

「二人とも見学?」

「あ、俺はそうです」

 群司が答える。

「私は付き添いです」

「付き添い?」

「はい」

 先輩が二人を見る。

「彼女?」

「違います」

 亜美が即答した。

「…………」

 群司が黙る。

「友達です」

「ああ、そうなのか。悪い」

「いえ」

 亜美は特に気にしていない。

 群司は少しだけ亜美を見る。

「即答だったね」

「だって違うでしょ」

「そうだけど」

「何?」

「何でもない」

 先輩が二人のやり取りを見て、少しだけ笑った。

「とりあえず入って。今は新歓期間だから、見学も多いし」

「ありがとうございます」

 中へ入る。

 途端に音が大きくなった。

 身体に響く低い音。

 床を踏む靴の音。

 鏡の前で踊る人たち。

 亜美は邪魔にならないように端へ寄った。

「群司」

「ん?」

「本当にやるの?」

「まだ見学」

「踊らないの?」

「何でちょっと楽しみにしてるの」

「見たいって言ったから」

「覚えてたんだ」

「当たり前でしょ」

「そっか」

 群司が少しだけ笑う。

 その顔を見て、亜美は首を傾げた。

「何?」

「何でもない」

 またそれ。

 最近の群司は、時々こういう顔をする。

 何か言いたそうなのに、結局何も言わない。

 けれど亜美も、それ以上は聞かなかった。