「クリスフェルト殿下……」
「間に合ってよかった。本当に心配したんだよ。君と居ると、心臓が幾つあっても足りないな」

 優しく微笑する殿下と出来ることならしばらくの間抱擁を続けていたかったけれど、それはセーウェルト王が許さなかった。

「貴様、もしやジュデットのベルケンド王の小せがれか!? 国内に入ったとは聞いていたが、どうやってここまで来た! もしやあやつら、しくじりおったというのか……?」

 セーウェルト王は予想外の事態に眉を顰めつつ、すぐに表情を取り繕って殿下を脅しつける。

「まあいい。魔族の身で国主の余に断りもなくこの場に居ること、これは重大な領土侵犯である! 即刻そやつの身柄を置いてこの国から退去せよ! でなければ、貴様をここで捕縛し、セーウェルト王国法により厳罰を――」
「黙れ……」
「ぬっ!?」

 短い、しかし強い怒りの籠った低い声が、セーウェルト王の口を縫い留める。
 彼のエメラルド色の瞳の奥は炎の様に揺らいでいた。