セーウェルト王がどっかりと椅子に座り直し、野太い笑みを浮かべて促すと、リリカは口を動かし始めた。

「これから、停戦により油断した魔族の国を騒乱に陥れるのですよ。魔族の方々がご執心な、あの姉の身柄を利用してね――」

 リリカの手には、紫色の背表紙をした古めかしい本がある。
 リリカの姉への復讐に自分すら利用されていることを知りながらも、ギーツは何も言えず放心したような心持ちでいた。そんな彼の耳を、リリカと王の会話がまるで素通りするかのように右から左へと流れていった。