地面に埋め込まれた幾つものぼろぼろの石碑群――境界標というやつだ――その残骸を後ろに遠ざけながら何台もの馬車が、荒れ地を進んでゆく。

 つい今しがた、私たちはジュデットに来る時は通ることの無かった国境付近を、王太子ギーツの配下たちと共に馬車で通行していったところだ。

 一つだけよかったのは、今回の事に伴い、一旦、セーウェルト王国とジュデット側との戦争が停戦に入るということ。セーウェルト本国から急に連絡が来たと王太子が告げ、ベルケンド陛下も快くそれを受け入れた。

 王太子ギーツ様の性格はあるとしても、これで少しだけ両国の関係が改善する期待が持て、私は車内で顔を綻ばせている。

「はあ、馬車というのは中々快適なものですのね~。竜車には速さは劣りますが、揺れは随分と少なく感じます」
「そりゃね。竜は多分片足で立つ時に身体が左右にぶれるから、不安定になるんじゃないかな?」

 今私の隣に居る、陛下が護衛として指名した人物は、あのメイアだ。赤髪を二つのシニョン型に括りつけたおなじみの侍女の片割れである。