ジュデットの象徴である王城の城壁上部からは、魔族の民たちが元気よく生活する姿を眺めることができる。

 そんな眼下の街並みを、その日の私は風に髪をなぶられながらも真剣に目に焼き付けようとしていた――。

「エルシア! 来てやったぞ。我輩も殿下も忙しいのだからこうして時間を作ってやったのを感謝して欲しいものだ、まったく」
「そう言うなよ、ベッカー。他ならぬエルシアの頼みなんだから」
「わかっておりますよ」

 城壁脇にある階段から、数人の足音が近付いて来て、私は振り向く。
 後ろの階段から姿を現したのはベッカーとクリスフェルト殿下、それと……。

「エルシアー!」

 握られていた殿下の手を振り解き、一目散に私に飛びついたのはミーミル様だ。

「ミーミル様。よかった、ちゃんと殿下と一緒に来てくれたんですね」