「残念ではありますが、御下命は完遂出来ず、報告に戻った者以外は捕縛されたようです」

 大っぴらには言うことは出来ないが、配下たちに下されていた命令は、ジュデットの国王及び世継ぎの暗殺。それが成れば国内は大きく混乱し、セーウェルト王国がジュデットの領土を手にするための大きな助けとなったことだろう。

 一時期向こうの国王が病に罹っているという噂が流れ、我々は半分以上謀殺の成功を期待していた。だが、なぜかその後、容態は回復し、ジュデット国王は最近他国との会談で元気な姿を見せているということだ。

 そして、今回の王太子の暗殺も失敗した。
 それを知った父上の機嫌が優れるはずもない。

「ふん、役立たずが。それで、そやつは始末したのであろうな?」
「い、いえ。今しばらくお待ちください。ジュデットへの次回の潜入経路を纏めさせていますので」

 私はそう吐き捨てた陛下の冷酷な瞳にぞっとした。氷のような冷たさで私を見る彼の目に肉親の情など無い。この人の子は他に何人もおり、私ですら替えの効く駒に過ぎないのだ。